書籍でも直木賞や芥川賞受賞作など特定の分野のものでは初版本が珍重され、コレクションアイテムのひとつとなっている。こけしは、それ自身がコレクションアイテムではあるが、その収集方法は各人各様であり、初作(初期作)を集中的に集めている方もおられるであろう。私は特に意識的に集めている訳ではないが、初期の作品にはそれ以降の作品には見られない面白みがあり、機会があれば入手している。今夜は岳温泉の大内恵津子の初期作である。口絵写真はその表情である。
大内恵津子は昭和35年の生まれ、岳温泉の大内慎二と結婚し、昭和59年3月に木地修業を始め、こけしを作り始めたとある。夫の慎二が木地修業を始めたのはちょうど1年前の58年3月。以来、夫婦揃って、こけしを作ることになった。
写真(2)(3)は恵津子のこけしと署名で、大きさは6寸。胴底には「昭和59年5月18日 岳 恵津子作」と署名がある。木地修業を始めて3カ月にも満たない頃の作ということになる。木地描彩とも本人かどうか分からないが、首のところに鉋跡が残っており嵌め込みも緩いことから本人木地と思われる(第860夜で紹介した慎二のこけしの木地はもっとしっかりしている)。それにしても、高々数か月でここまでのこけしを作ったことは大したものである。素朴な表情、太く滲んだ赤と緑の返しロクロ模様は、今朝吉から続く岳こけしをしっかりと受け継いでいる。女性らしく温和で静かな表情のこけしである。
写真(4)に慎二と恵津子の初期作を並べて見た。それぞれに特徴があり、両者の後年の作とは味わいも異なる、この辺りが初期作の見どころもであり取集意欲を掻き立てられる要因でもあるのであろう。現在、ご両人ともこけしは作っていないようで寂しいことである。年齢的にも未だ若く、ぜひ復活を期待したいものである。