蔵王系の秋山慶一郎のこけしは好きなこけしの1つである。特に戦前のボリューム感に溢れた堂々たるこけしは何とも言えない。「ひやね」の「こけし往来」第40集に、その戦前の8寸物が出ており、店まで出かけて実物を確認し、入札に入れたが入手するには至らなかった。それとほぼ同様の尺物がヤフオクに出た。保存状態(胴の色の残り具合)はひやね物よりは良さそうだが、出品値はかなりの高額であった。そのせいか直前まで入札者は現れなかったが、結局競り合いとなり、出品値の1割増しまで上がってしまった。今夜は、その慶一郎を紹介したい。口絵写真は、その表情。
慶一郎の戦前作は1本だけ持っている。第259夜で紹介した7寸弱物で、纏めて入手した古品の中に含まれていたものである。慶一郎の戦前作で確認されているものは昭和11年以降のものと言われているが、戦前物でもその後の変化(特に表情)は大きく、それが魅力にもなっている。
写真(2)は、右が昭和13、4年頃の作、中央が本稿のこけしで、胴底に「18.2」の書き込みがある。左は34年頃のもの。右のこけしについては第259夜で詳しく述べているが、細身で長めの胴、表情は眉・目が整い、大らかな中にも気品の漂う優品である。15年くらいまでのこのような形態、描彩が続くが、やがて肩が張り、胴は太く湾曲も少なくなる。頭も一段と角ばって、ずんぐりした形態に変わってくる。また、両鬢が中に寄ってきて、顔の面積が狭くなる。それに合わせたように眉・目も小さくなり、やや上寄りになる。18年頃のものは向かって左の鬢が右に比べて長くなっている。眉・目、鼻・口の描線は細くなるが弱い表情ではなく、下膨れで味わいのある表情となっている。戦後になると左のこけしのように、両鬢は再び外寄りになって面描も大きくなるが、戦前作との差は大きい。胴の重ね菊の描法は大きくは変わらないが、戦後作では、一番上の花弁の先が上方に跳ねて襟を思わせる描法となるのが大きな違いである。