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Channel: こけし千夜一夜物語
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第804夜:新春古品入札(庸吉2)

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Yokichi_b_atama昨夜の庸吉の続きである。今夜は、入手した庸吉こけしをじっくり見ていきたいと思う。口絵写真は、その頭部の描彩である。

Yokichi_b_ware

写真(2)は胴の割れの状態である。ご覧のように胴底から肩の山の部分まで、深さ2cmほどの割れが見事なまでに入っている。ただ、肩の山の部分の割れは頭の嵌め込み部分の直前で止まっているようで、頭は胴にしっかり嵌っており普通に回すことが出来る。スレスレでセーフといったところであろうか。

Yokichi_b_3hon

写真(3)に昨夜紹介した庸吉B型の同じ胴模様のものと並べてみた。真ん中が本項の庸吉で、左が西田蔵品、右が鹿間蔵品である。ご覧のように、正面から見ると胴の大きな割れは殆ど見えず鑑賞上は支障がないということである。こうして3本を並べてみると、本項の庸吉は鹿間庸吉に近いことが分かる。西田庸吉は昭和15年4月に入手したものであり、鹿間庸吉は16年10月に入手したもの。ともにB型であるが、西田庸吉は肩の山もやや低く、時期的にも右2本よりはやや古いものであろう。鹿間庸吉は「こけし鑑賞」のモノクロ写真であるが、その色彩jは本項の庸吉とほぼ同じであったと考えて良いだろう。木地形態は細身の長い胴にやや大きめの頭を乗せ、胴はかすかに凹んでいる。胴上下と肩の山のロクロ線は赤のみで緑は使われていない。これが古い鳴子こけしの様式なのであろう。胴模様は3段の重ね菊。

Yokichi_b_kao_hikaku

写真(4)では、面描の特徴を見てみたいと思う。真中が本項のこけしで、左は西田庸吉(7寸3分)で、顔の面積が小さく、A型かとも言われているものである。ここでは眼点の入れ方に注目してみた。西田庸吉では右目は下向きに左目は横向きに眼点を入れている。本項の庸吉も同じ入れ方をしている。最も、写真(2)の庸吉は両方とも下向きなので、単なる偶然かもしれないが、それによって表情に独特の味わいが出ているようにも思える。

さて、昨夜の口絵写真をご覧いただいた時点で気づかれた方も居たと思うが、本項の庸吉の一番の特徴は、鬢の後の3つの赤い飾りが付いていることなのである。今まで数多くの鳴子こけしを見てきたが、このような鬢飾りにはお目にかかったことはなかった。また、文献などで見かける庸吉こけしでも見たことがない。(「蔵王東のきぼこ版画と解説」は未見であり、そこには載っているかも知れないが・・・) どうして、このような飾りが付いたかは気になるところ。そこで庸吉に関する文献を見ていると、庸吉は明治35年に肘折温泉に出稼ぎに行っており、そこで木地技術や描彩(染料)に関する最新の知識を得て帰ったとある。写真(4)右は大沼新兵衛の肘折型のこけし。新兵衛も肘折に行って、このようなこけしを作っている。これは肘折型なので鬢の後に赤い飾りが付いている。庸吉は流石に肘折型のこけしは作らなかったが、肘折で見たこけしを参考にして、自身のこけしにこのような鬢飾りを付けたのではないかと思われる。1本のこけしを元に調べてみると色々な発見がある。これもこけし収集の醍醐味の1つなのであろう。


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