ようやくと言おうか、やっとと言おうか、今日(22日)関東地方も梅雨明けの宣言があった。最近の梅雨は、しとしとと長雨が続く女形ではなく、豪雨や雷などの激しい男形が多いようだ。さて、今夜は佐藤伝喜の珍しい伝伍型を紹介したいと思う。剛直な表情が気に入って求めたものである。戦後の伝喜は昭和33年に復活したのは周知の通りであり、その後、伝内型、勘内型、伝伍型も制作している。この内、伝伍型は民芸店「ねじめ」の要請により昭和43年に復元したと「こけし辞典」の伝伍の項に記載されている。口絵写真はその伝伍型の表情である。
写真(2)は本項のこけしの胴底である。「1968年7月」との伝喜の署名の他に、「68.7.22 ネジメ 伝伍型試作」「しかま復元作」との書き込みが見える。これは、「こけし辞典」で述べられているように、鹿間氏の伝伍こけしを元に、1968年(昭和43年)7月に「ネジメ」の要請で作られた伝伍型の試作品ということであろうか。
写真(3)は本項のこけしの全体像で、大きさは7寸である。
写真(4)で同形の伝伍のこけしの写真(右)と比べてみた。先ず、木地形態を見てみよう。胴中央に緑の帯を入れた木地形態は同じであるが、伝伍作は胴裾が広がっており、肩の部分に丸みがあるなど、女性的な形態になっている。胴模様は両者とも裾に紫の波線を入れ、胴上下に3輪の正面菊を配しているが、伝喜作が3輪とも同じ様式の花であるのに対し、伝伍作は下の1輪は大きな緑の丸い花芯の周りに花弁の多い花を、上の2輪は花弁も少なく平らな花を描いて変化を付けている。次に面描を見てみよう。伝伍こけしの特長の一つに紡錘形の二側目があるが、伝伍の眼が柔らかな曲線でまろやかな眼差しになっているのに対し、伝喜の伝伍型の眼は鋭角的な線で上下の瞼が描かれ、剛直な表情になっている。また、伝伍作は眉・目・鼻・口が中央に寄ってちまちました表情になっているのに対し、伝喜作は鼻・口が下方に離れ、鋭い視線の反面、茫洋とした表情に見える。伝伍のこけしが戦前作であり、伝喜の作が戦後作という時代の差もあるが、やはり作り慣れた自分自身のこけしと復元作との間には如何ともし難い溝があることを示しているように思われる。